脚が不自由な私に、夫が建ててくれたのは平屋住宅。
器用な夫は、業者に頼まず家の外壁塗装は自分で行っていた。夫が最後に外壁塗装をしたのは10年前、「そろ外壁塗装をしないとな」と言っていた夫は、私を置いてあの世に行ってしまった。
独りになって3年、庭木は大きくなってしまい見っともない、剪定が趣味だった夫は荒れてしまった庭を嘆いているだろう。
脚が不自由だと庭の手入れは不十分、業者さんを呼ぼうと思うのだが、夫が大事にしていた庭を他人に剪定されるのは辛い。
雑草が伸び放題の荒れた庭に出ていると、近所に住む幼馴染みが作業着姿の青年を連れて来た。
私、「どうしたの?」
幼馴染み、「私の家、この青年に外壁塗装をしてもらったの、貴方も外壁塗装をしたら」
すると、幼馴染みが連れて来た青年は、「私の出る幕ではないですよ。こちらは旦那さんが外壁塗装してますから」
私、「夫が外壁塗装をしてたのを知っているの?」
青年、「旦那さんとは何度かお話をしたことがあります」
私、「夫と何を話していたの?」
青年、「外壁塗装の仕方を教えてあげました」
私、「職人さんに聞くなんて、ごめんなさいね」
幼馴染みはその青年に私の夫があの世に行ったことは話しておらず、塗装業者の青年は私に外壁塗装の営業をしてこなかった。
いつかは外壁塗装をしないといけないと思っていた、夫が話したことのある青年なら夫は喜んでくれるだろうと思い、その青年に家の外壁塗装を頼んだ。
塗装費用の見積もりで塗装業者の青年が家を見に来た時に、庭が荒れていては塗装の邪魔になることを話すと、「素人の剪定で良ければ私がやります」と言ってくれた。
外壁塗装が始まる1週間前に青年が庭木の剪定をしてくれ、その様子を私は部屋の中から見ていた。
庭木の剪定が始まって2時間したらお茶を出すのは、夫が剪定してくれた時と同じ、違ったのはお茶と一緒にお菓子も出したこと。
庭木の剪定をしてくれている青年は、出したお菓子を喜んで食べてくれた、それを見て私も嬉しくなった。
昼になったため剪定のお礼にお寿司でも取ろうと思うと、「そこまでしなくて良い」と仏壇に置いてある夫の写真が私に言った気がした。
私達夫婦に子供がいれば青年と同じくらいだろう、そう思うとお寿司を取ってあげたくなり、私は仏壇の扉を締めた。
若いだけあり、取ってあげたお寿司をペロッと平らげた青年。
それからの1ヶ月は楽しかったのだが、外壁塗装が終わってしまうと再び孤独な生活が始まった。
青年が剪定してくれた庭に水を撒いていると、「こんにちは」、声を掛けてくれたのは塗装業者の青年。
青年が勤める塗装業者は地元の会社のため、私の家の近隣で仕事をすることが多く、外壁塗装が終わってからも青年は私を見掛けると声を掛けてくれる、それが、独居老人の私には嬉しい。